訪問看護の求人を出している。紹介会社にも依頼している。それでも、候補者の打診が極端に少ない。
医療法人財団 博仁会 キナシ大林病院が運営する「訪問看護ステーション きなし」では、そこへ急な欠員が重なり、ステーションの稼働に必要な看護師の定員を割りかねない状況になっていました。採用は、待ったなしの経営課題でした。
支援期間は2026年3月から7月までの約5ヶ月間。候補者12名の対応を経て、この危機は、現場が理想としていた「訪問看護経験者」の採用というかたちで回避されました。そしてこの支援には、初日に持丸が伝えたもうひとつのゴールがあります。「紹介会社に頼らなくても、自前で採用できるベースを作る」です。
課題
- 急な欠員が重なり、稼働に必要な看護師の定員を割りかねない状況
- 紹介会社に依頼しても、候補者の打診が極端に少ない
- 求人の判断材料が紹介会社の経験則に委ねられ、こちらから伝える情報が整っていない
- 候補者とのやりとりが感覚頼みで、記録が残らない
アプローチ
- ゴールを「自前で採用できるベースづくり」に設定し、緊急の採用と土台づくりを並行
- 現場への質問を重ね、オンコール実態や教育体制など30項目超の求人情報を言語化
- 候補者一覧・自動通知・履歴書取り込みをひとつにした候補者管理の仕組みを構築し、レクチャーつきで院内へ移管
期間中に確認された変化
- 候補者12名の対応を経て、理想としていた訪問看護経験者1名の採用が決定。定員割れの危機を回避
- 感覚でのやりとりから、実績や実情にもとづいて答えられる採用へ
- 辞退やお断りの理由まで言語化して記録し、次の採用に活かせる基盤が院内に残った
初日に伝えたゴール:「自前で採用できるベースを作る」
支援に入った初日、持丸はひとつの前提を伝えました。
急な欠員をお金をかけてすぐに埋める。その繰り返しでは、組織を強くする採用はできません。今回は緊急なので紹介会社の力を借りる。ただしそれを土台にして、自分たちで採用できるようになる支援をこの期間で行う。
この前提には、持丸自身の経験があります。持丸は以前、医療福祉領域の人材紹介会社でエージェントをしていました。紹介する側から見ると、求人情報が曖昧な事業所には、候補者を紹介したくてもできません。当時のキナシ大林病院は、まさにその状態に見えました。
一方の杉本さんは、外部の支援が入ると聞いたとき、期待と不安の両方があったといいます。人事・採用の担当になって4か月というタイミングでした。

質問を重ねて、職場を「語れる情報」に変える
最初の働きかけは、現場への質問でした。
自分たちのことほど、言語化できないものはありません。持丸はそれを分かったうえで、杉本さんに負荷がかかることを承知で、ヒアリングを重ねました。オンコールは実際に月何回あるのか。訪問件数は。教育はどう進めているのか。子育てと両立している看護師は何人いて、どんな働き方をしているのか。答えが感覚的な言葉に留まるたびに、実績や実例で答えられるまで確認しました。
質問に驚きながらも、現場に確かめに行き、とにかく答え続けました。その往復のなかで、感覚として持っていた職場の姿が、数字と実例で語れる情報に変わっていきました。
持丸はそれを、紹介会社がそのまま候補者に説明できる形へ整理し、各社に共有しました。候補者への紹介トークや、よくある懸念への答え方まで含めて渡しています。それまでは、紹介会社が過去の経験から「この病院にはこういう候補者を」と判断して紹介していました。これからは、こちらが出した情報で候補者を選んでもらう。連携の向きが、ここで変わりました。
問われた「なぜ」に、事実で答える
情報を出しはじめると、今度は紹介会社や候補者から「なぜ欠員が重なったのか」を問われるようになりました。
持丸は理由を杉本さんと一緒に整理して言語化し、同じ状況を繰り返さないための学びとともに、そのまま伝えられるようにしました。問われたことに、事実で答えられる。杉本さんは、この転換が採用への向き合い方が変わるポイントのひとつだったと振り返ります。
この5ヶ月の進み方について、杉本さんが「一番印象に残っている」と挙げたのは、スピードでした。
課題を見つけたら、改善のためにすぐ動く。この動き方は、杉本さんからも事務長の鎌倉さんからも、共通して挙がった評価でした。5ヶ月は、次のように進んでいます。
5ヶ月の並走ロードマップ
- 初日にゴールを提示(自前採用のベースづくり)
- 現場ヒアリングで求人情報30項目超を言語化し、紹介会社各社へ提示
- 候補者対応の窓口(面接前段まで)に入り、応募の実態を把握
- 現場に確かめて、事実で答える型ができる
- 4月、訪問看護経験者1名の採用が決定
- 欠員理由を一緒に言語化し、学びとともに開示
- 面接へのフィードバックを紹介会社から聴取し、院内へ提示
- AIを使った発信(Instagram・HP記事)の作り方をアドバイス
- 面接の進め方を見直す
- 問われた「なぜ」に、事実で答えられるようになる
- 候補者管理の仕組み(一覧・自動通知・履歴書インポーター)を完成
- レクチャー・マニュアル・録画つきで院内へ移管
- 仕組みを引き取り、自分たちの運用へ
外の視点を、院内に持ち込む
持丸は紹介会社との窓口も担い、紹介会社側から見た「キナシ大林病院の採用」への率直なフィードバックを聞き取りました。面接は候補者からどう見えているか。選考の進め方に、応募をためらわせる要素はないか。聞き取った内容は院内へ持ち帰り、面接の進め方を見直す材料として提示しました。
外からの指摘を受け取って、実際に動くかどうかは組織側の力です。キナシ大林病院は、提示された見直し案に速く応えました。

現状をありのまま伝えて、決まった採用
期間中、持丸が担ったのは、紹介会社と院内をつなぐハブ役です。応募の受け取り、経歴の整理、現状を伝えたうえでの条件のすり合わせまでを引き受け、面接と採用の判断は院内に仰ぎました。
内側に入ったことで、求人情報として出すべき項目と、記録に残すべき経緯が具体的に見えてきました。
支援開始から2ヶ月ほどの4月、訪問看護経験者1名の採用が決まり、定員割れの危機は回避されました。経験者は、現場がもっとも来てほしいと考えていた人材です。現場は入職を心待ちにしていたといいます。
12名のうち、面談の前にこちらからお断りした方が6名、辞退となった方が5名。そのうえでの1名です。合わない方を無理に進めない選考は一見遠回りに見えますが、現状を分かったうえでの応募は、進むにしても辞退するにしても、紹介会社も候補者も納得した状態で話が進みます。入職後のギャップも、小さくなっていくはずです。
採用に至らなかった経緯も、持丸は記録に残しました。なぜ応募してくれたのか。なぜ入職に至らなかったのか。辞退の理由も、お断りせざるを得なかった理由も、言語化してあとから参照できるようにしています。採用を一回ごとの成否で終わらせず、次の採用の材料にする。それが「自前で採用できるベース」の中身です。

仕組みごと渡して、支援を終える
支援の最終月、持丸は窓口で見えてきたことを仕組みに落とし、院内へ引き継ぎました。候補者一覧、応募や面接の自動通知、履歴書から候補者情報を読み取る取り込み機能。操作レクチャーの時間を取り、マニュアルと録画も残しました。「持丸がいないと回らない」状態を残さないためです。
あわせて、自分たちの発信を自分たちで作れるように、広報担当者の方へ、AIを活用したInstagramやホームページ記事の作り方、ネタの見つけ方もアドバイスしました。求人情報のために言語化した職場の姿は、そのまま発信の素材になります。
初日に伝えたゴール「紹介会社に頼らない、自前で採用できるベースを作る」は、こうして仕組みと記録と発信の入口として院内に残りました。訪問看護に限らず、病棟看護師や介護職の採用にも使える形にしています。

支援を終えて
支援の締めくくりに送った振り返りの報告書には、事務長の鎌倉さんから言葉をいただきました。
鎌倉さんからは、対応の速さに加え、一つの取り組みで複数の課題を同時に解消していく点についても、評価をいただきました。
そして杉本さんに、この5ヶ月を一言で表すとどうなるかを聞きました。
採用の課題は「応募が来ない」という形で現れます。その奥には、伝えるべき情報がまだ言葉になっていない、記録が残っていない、問われた「なぜ」に答える言葉がないといった構造があります。外から質問し、言語化し、仕組みを渡す。それを受けた院内が、自分たちの採用を考え直しはじめる。キナシ大林病院の5ヶ月は、その分岐点をつくる支援でした。

